1月30日の記者会見における、木村草太氏のコメントです。ぜひ、多くの人に読んでいただきたいです!
2024年1月30日
離婚後の非合意・強制型の共同親権を導入する要綱へのコメント
東京都立大学法学部教授 木村草太
今回の要綱は、裁判所が明確な「子の利益を害する事情」を見つけられない場合には、父母の合意がなくとも共同親権を命じ得る内容です。こうした非合意・強制型共同親権には、重大な問題があります。
第一に、共同親権の合意すらできない父母に親権の共同行使を強制すれば、子の医療や教育、引っ越しなどに関する意思決定を混乱させ、子の利益を害します。「事前相談がなかった」などとクレームを付けられる、場合によっては訴訟を起こされる、といった事例も頻発するでしょう。
現状、シングルの子育ては、精神的・経済的・時間的に余裕のない人がたくさんいます。ギリギリな中で、なんとか頑張っている同居親に、親権行使のための交渉や調整の負担を課し、子のために使える時間やお金を浪費させることにもなりかねません。
第二に、「共同決定の強制」は「人間関係の強制」であり、それ自体が国家権力による暴力であり、家庭内暴力の助長です。
憲法24条1項が、婚姻の成立に両当事者の合意を要求したことの意味をよく考えるべきです。親権の共同は「婚姻の効果」の一つであり、両当事者の合意がない限り生じさせてはならない効果のはずです。
また、この要綱が決定されたプロセスにも、重大な問題があります。
第一に、法制審議会は、全会一致を慣行としてきました。それは、法制審議会の有識者がそれぞれ専門を異にし、一部の意見を無視すれば、重大な問題が発生するからです。今回は、DV・虐待の専門家の反対を多数決で押し切ろうという動きがあります。この法案が通れば、DVや虐待の被害者が窮地に立たされることになるのは、明らかです。
第二に、中間試案の作成において、参考資料の作成に政治的圧力があったという報道がありますが、審議会はこの点について検証していません。
第三に、パブリックコメントには、多くの当事者から、非合意・強制型の共同親権への切実な懸念が寄せられましたが、審議会は、それらの声を十分に検討していません。
第四に、審議の内容にも多くの疑問が残ります。審議会では、父母が合意してなくても共同親権にすべき場合とはどのような場合かなど、大変重要な問題提起がなされましたが、受け流されたままです。
このように、要綱決定のプロセスは異様で、議論の内容も、子どもの利益と家庭内暴力の被害者への配慮を欠いたものになっています。
この要綱案に賛成するということは、DV・虐待の被害について無知であるか、加害に加担しているかのいずれかです。さらには、「人間関係を強制されない」という、人間の尊厳に不可欠な自由の侵害についても、無知であるか加害に加担しているかのいずれかです。
無知にせよ、加害への加担にせよ、DVや虐待の被害者の保護、あるいは、個人の尊厳をないがしろにする本案が、「理の場」たるべき法制審会において、多数決という数の暴力で押し切られるという前例を、看過するわけにはいきません。
なお、現行法でも、父母の協力関係があれば、共同の子育ては可能です。実際に、離婚後でも、父母の家を行き来するなど、協力して子育てをしている事例は多くあります。
しかし、共同親権でなければ共同で子育てできない、現行法のせいで面会交流が一切できない、という趣旨の誤った報道が相次いできました。ぜひ、正しい情報を発信してください。
以上